受験生。家出する。

 高校三年生、受験勉強真っ盛りだった若かりし私。
 母子家庭で育った我が家には塾や予備校に通わせるお金などなく、それでも自力で大学など合格できるだろうと思ってた。高校でも成績上位者に入っていたので、なんとなく大学受験は上手く行くような気がしていた。受験勉強というよりも、それぞれの科目の面白いところを深く掘り下げて勉強に励んでいたけど、夏頃から模試で点数がとれないこと、合格判定が一向にDから抜け出せないことに違和感を覚えた。<このままで大丈夫なんだろうか?>と。
 でも誰も助けてくれない。自分で舵取りして立ち止まっている暇がないから勉強するのみ!がむしゃらに寝る間も食べる間も惜しんで勉強に没頭した。体重が減ってくるほど勉強一本に掛けた。女なんていう意識を捨てて髪を振り乱してシャーペンをにぎった。ストップウォッチ片手に一日12時間以上勉強するようタイムを押した。12時間以上机の前にかじりついていたらきっと結果がついてくる!と思い込んでいた。
 が、違った。国公立私大の最後の模試でも、私はちっとも手応えを感じなかった。全然わからないのだ。どの科目も、本当に全然わからないのだ。今まで何をしてきたのだろうという喪失感しかなかった。届いた結果は5つ書いた全ての大学の合格判定欄にDが並んだ。悔しかった。行き場のない怒りというか悔しさというか報われない努力に気持ちが滅入った。浪人を覚悟しなきゃいけないと感じ始め、母親に初めて相談した。頑張って勉強しているのだけど、全然結果がついてこない・・・。このままだとどこも引っかからないと思う。もし大学落ちたら浪人して勉強したいのだけどと。
 母は、厳しい家計状況もあり本音はすぐにでも働いてもらいたいと思っていた。結果が出ないならやめな、あんたには無理だ!そう言い放ったとき、私の中の何かが切れた。”うちが貧乏だから予備校にも通えないんだ”と悔し紛れの言い訳を放って私は11月も後半の寒い夜にコート一枚羽織って家を飛び出した。
 お金は小銭しか入ってなかったお財布を持っていたが幾らもない。家を飛び出したはいいが、どこに行けばよいかわからない。ひとまず涙でぐしゃぐしゃになった顔を誰にも見られたくなかったので近所のわりと大きめの公園に行った。トイレに入り顔の状態を確認した。時間は午後8時。本当だったら最後の追い込みで勉強しなきゃならない時期なのに、もうどうにでもなれ!って感じだった。夜は長い、さてどうしようか。駅前のショッピングモールなら9時までやっているからひとまず閉店時間まではそこで過ごすことにした。ぶらぶらと店を見て回ると閉店のアナウンスが流れる。さて、どうしようか。次に考えたのがコンビ二。立ち読みで1時間くらいはねばったが、どうにも怪しい自分に思えてきて温かい飲み物を買って出た。さて、どうしようか。ゆっくりと夜の街を歩いた。でもやっぱり怖い。どんどん寒くなってきた。だから歩いて体を暖めるしかない。様々な疲労がたまって来て私はどこかで休みたくなった。行き着くところは最初に訪れた家の近くの公園。トイレに入り見た目の怪しさがないか確認した。寒いし暗い。でもまだ人通りはあったので内心誰かに見られていないかヒヤヒヤした。もう今日はここで野宿だ!そう腹を括って寝場所を探した。誰かに見られては危険だと思ったのでベンチは避けてテニスコートを備えた公園のそのコートに降りるための階段を見つけた。ここだと段差に座ることもできるし、暗がりになって影にもなっていたので人目を気にすることもなさそうだと分かった。まるで羅生門の世界だな、なんて優雅な気分になった。
 寒さと疲れで、私の思考は受験へのこだわりや母への怒りなど、もうどうでも良くなってきた。冬のキンと冷えるような外で息を吸っていると、何してるんだろと冷静な気持ちになった。意地でも今日は帰らない。ここで頑張る!そう決めてほとんど眠れもしない夜の中朝日が昇るのを待ち続けた。
 午前8時、約12時間の逃亡?を経て高3の私は初めての野宿を体験し逞しくなって帰宅した。家は温かくて、すぐに自分のベッドで寝た。母も眠れず心配していたようだ。

 その後受験勉強はやっぱりうまくいかなかったが、何とかかんとかひっかかった大学があり、この日の経験は笑い話になった。

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